本研究は、資金調達方法の多様化が求められるなかで新たに生み出される種々の担保手段、そして、再構築がすすめられている抵当権等の既存の担保諸制度について、それら諸制度・手段の意義や位置づけ、相互の連関等を明らかにしつつ、実行手続という視点から考察を加えて、その全体的把握、担保体系の構築を企図するものである。本年度は、主として次の2つの点について検討を行った。 第1は、抵当権の実行手続に関し、平成15年の担保・執行法改正の後もなお残る執行妨害の問題について検討を行った。賃借人に対する明渡請求が問題となった最高裁判例の分析においては、収益執行との対比から損害賠償請求の途も積極的に模索すべきこと、また、多様な担保権実行の可能性を追求する見地から、抵当権の私的実行(任意処分)においても、保全処分の申立てが認められるべきことを明らかにした。また、とくに近時は、留置権や先取特権を用いた抵当権実行の妨害の事例も目立っているところ、留置権と抵当権の関係について検討を行い、留置権については、抵当権に優位する地位を与えるべき場合と、対抗の問題として把握すべき場合とに類型化する視点が有用であることを提示した。 第2は、アメリカ法についての検討である。アメリカでは、不動産担保以外にも、UCCに規定された様々な担保制度が積極的に活用されている。わが国では、動産担保としての動産登記制度は緒についたばかりであり、また企業担保、財団抵当は、ほとんど活用されていない。その相違は、これらの担保を利用できる範囲、あるいは手続の簡便さ等に起因するものといえる。やが国の新たな担保制度の創出にも有用な視座を与えるものといえるが、次年度において、さらに研究をすすめていく予定である。
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