本研究は、法律関係を構成する諸要素に何らかの法的な結合関係が承認される状況において、そうした法的結合関係を正当化する理論的基礎の解明を最終的な目的として、様々な個別事例における法的結合関係に関わる議論の理論的分析を行うものである。本年度においては、まず、いわゆる相殺予約の第三者効について研究を進めた。同一内容の対立する債権が存在するとき、これらの債権に係る当事者は相殺による簡易決済への期待を有する。また、こうした期待を確実なものとならしめるために、相殺予約が締結されることがある。こうした相殺の期待が第三者、とりわけ一方当事者の第三債権者に対する関係でも保護されうるかという問題が長らく議論されてきている。この議論の中で大きな重要性を有しているのが最高裁大法廷昭和45年判決であり、同判決の判決文からは法定相殺につきいわゆる無制限説が採用され、相殺予約の第三者効も無制約に承認されたものとの理解ができる。これに対し、学説の中では法定相殺につきいわゆる相殺適状説や制限説Iが、相殺予約につきいわゆる合理的期待説が有力である。もっとも、この問題に関しては、最大判昭和45年により一般的な表現が用いられたことが原因で、同判決以降は抽象的なレベルでの議論に隔たってきた。しかし、同判決以前においては事案毎の被差押債権の性質に着目した分析も行われており、また同判決は当時の特殊な時代背景の下でのみ理解されうるものであろう。相殺予約による対立債権の牽連性の強化を理論的に分析するためには、そうしたよりきめ細やかな検討が必要であろう。現在のところこうした基本的視座に基づき、本問題について論文を作成している。この他、いわゆる複合契約の解除に関する契約の目的の重要性との関連において、契約の解除を巡り契約の目的を規律内容に取り込んでいる民法542条の沿革を研究すべく、同条の母法であるスイス法の調査も始めている。
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