本研究は、法律関係を構成する諸要素に何らかの法的な結合関係が承認される状況において、そうした法的結合関係を正当化する理論的基礎の解明を最終的な目的として、様々な個別事例における法的結合関係に関わる議論の理論的分析を行うものである。本年度においてはまず、昨年度に行ったいわゆる相殺予約の第三者効についての研究をまとめ、論文を執筆した。この中で、最高裁大法廷昭和45年判決に代表される無制限説によるにせよ、学説において有力な合理的期待説によるにせよ、これまで相殺予約の第三者効そのものは承認されてきたものの、その際には銀行取引で用いられる期限の利益喪失特約の効力のみを念頭においた理由付けしか行われておらず、こうした解釈は「相殺予約」一般に当てはまるものではないことを指摘した上で、各説の論拠として挙げられている事情の多くが意義を有さず、結局は戦後の高度成長期における社会経済状況を背景とした政策的判断のみが期限の利益喪失特約の対第三者効を正当化しうるのであり、現在において相殺予約の第三者効は否定的に解されるべき旨を主張した。 この他、いわゆる複合契約の解除に関する契約の目的の重要性との関連において、契約の解除を巡り契約の目的を規律内容に取り込んでいる民法542条の沿革を研究すべく、同条の母法であるスイス法の調査・分析も進めた。これまで契約解除法全般において、伝統的に日本民法の規定はドイツ法学の影響の下で解釈されてきたが、民法542条はBGBやドイツ民法学から一定の距離を置いているスイス法独自の考えから生まれたものであり、これまでの解釈方法とは異なる認識枠組みの下で同条を評価すべきであるように考えている。また、こうした認識枠組みは、昨今の債権法改正論議にも一定の寄与をもたらすものと思われる。
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