本年度は、妻の抵当権の存在が、フランス1804年民法典の抵当権規定及び夫婦財産関係法令にいかなる影響を与えたのかを明らかにした。 妻の隠れた抵当権の存在は、抵当取引の足枷となる。なぜなら、不動産に何らの権利も付着していないと思い抵当権を設定した債権者が、後日の妻の法定抵当権の出現により、優先弁済権を奪われることになるからである。そこで、19世紀の抵当実務は、夫の不動産に抵当権を設定するに際して、妻をその取引に参加させ、妻の法定抵当権に抵当権を設定するという方法を考案する。抵当権代位(subrogation)という方法である。これにより、抵当権者は、抵当権実行に際して、自分の抵当権とともに、妻の抵当権を実行し、優先弁済を得るわけである。ところで、1804年の民法典によれば、夫は、単独で夫婦間財産を管理することができる。しかし、上述のような代位の実務は、民法の規定に反して、夫婦間財産の共同管理を実現させることになった。 このように、妻の法定抵当権は、妻の債権を保護するだけでなく、一方においては、実際には、夫が信用をえるための道具となり、他方においては、夫婦財産の共同管理を実現するために機能していた。 問題は、これらの機能が、1804年法の本来的機能なのであるか、それとも19世紀の実務が半ば偶発的に生み出したものなのかという点であるが、この点については、後日検討する。
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