本年度の研究実績は、まず、前半期において交付申請書において示した研究目的を達成するため、差止請求の範囲の特定および強制執行方法についての諸外国の判例・学説について分析・検討を行なった。特に、近年、インターネットの活用とこれに起因する著作権侵害についての、研究の一環として、P2P形式のファイル交換サービスによる著作権侵害事件(東京地裁民事第29部平成15年12月17日判決)につき、民事手続法の観点から先の差止判決を潜脱する侵害行為に対する実効的な抑止手段としての抽象的差止請求の是非について検討を加えるとともに、訴訟物の特定と執行手続について検討を行い、その研究成果として、後掲の判例評釈を公刊した。同事件については、知的財産法の研究者による解説、問題解決のアプローチを示した若干の論文があるが、民事手続法の観点からこれを論じたものとして、筆者の検索によると、当該判例評釈が唯一のものであるといえる。本年度後半期においては、前半期の基礎的な研究をとおして得られた研究成果をもとに、後掲研究成果に示された論文を公表した。本論文は、知的財産権法と民事訴訟法の分野に分離され論じられてきた従来のアプローチに対する限界を示し、作為・不作為請求権に基づく強制執行という観点から抽出される共通項を用いて、生活妨害訴訟と知的財産権侵害訴訟にまたがる訴訟物の特定と執行方法の可能性について、ドイツ法の議論を参考にしつつ検討を加えた。さらに、現在、日本を介して民事訴訟・執行制度を継受した韓国における訴訟上の知的財産権保護の一環として営業秘密の保護についての研究をすすめており来年度前半期に公刊したい。次年度は、本研究目的達成のため本年度に得られた成果をもとに、さらにその幅を拡げ訴訟・執行手続のみならず、調停・仲裁などを加えた裁判外紛争処理(ADR)の実施状況などについても、日・独・韓の比較法制研究を進めたい。
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