相手方の援用しない自己に不利益な当事者の陳述についての、日本民事裁判実務、ドイツ民事裁判実務における取扱いを中心に、調査・研究した。 その結果、日本裁判実務においては、まず、一方当事者が自己に不利益な陳述をしたのに対し、他方当事者がそれに対して何も応答をしなかった場合には、その陳述を裁判の基礎にすることで、裁判実務は一致しているようであった。しかし、一方当事者が自己に不利益な陳述をしたのに対し、相手方当事者がそれを争った場合については、主張共通の原則を貫けば、双方の当事者の自己に不利益な陳述が訴訟資料となるため、証拠調をするのが本則と考えられるが、そのように考える実務家は少なく、原告の自己に不利益な陳述のみを取り上げるべきだと考える実務家が多いことが、明らかとなった。 他方、ドイツ裁判実務においては、有理性審査を行う実務が確立しており、まず原告側の主張が主張自体失当の場合には、請求棄却とし、原告側の主張が主張自体失当でない場合には、被告側の主張の有理性が審査される、という形で、相手方の援用しない自己に不利益な当事者の陳述が処理されていることが分かった。ただし、双方の主張が有理性を有する場合の、不利益陳述の取扱いについては、定かでない。 以上は、日本における文献収集や、ヒアリング・研究会等における裁判官の意見収集、ドイツにおいて実施した、裁判官・研究者へのヒアリングの成果として得られた帰結である。
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