株主利益の追求と社会的配慮という企業に対する二つの要請の関係性をどのように捉えるべきなのか。英国で2006年に成立した新会社法は、従来の会社法制においては明言されることのなかったこの課題に果敢に取り組み、法的な位置づけを試みたものとして注目に値する。 そこで平成19年度は、企業運営における社会的要因の配慮の位置づけと、それに関する法的枠組みのあり方を、英国新会社法を例にとり考察した。同考察においては、域内国としての英国に影響を及ぼすEU規制の状況を同時にカバーすることで、EUレベルでの動向にも目を向けた。 英国会社法上の社会的責任にかかる規制のあり方は、第一に、会社の目的を株主利益の追求と位置づけながらも、その実現には社会的な配慮が求められるという認識のもと、会社法上の明文で-具体的には、取締役の一般義務の一部として-このことを示すに至った。第二に、環境情報の開示義務については、改正前から存在していたものの、度重なる改正でやや混乱を招いていたその内容を、新しいビジネス・レビュー規制の枠組みの中で再整理した。ここで情報開示の目的が、取締役がどのように上述の一般義務を遂行したか判断するための情報を株主に提供することにある、と明示されたため、社会的要素に関わる情報提供の重要性はこの一般義務の遵守の観点からも裏付けられることとなった。さらに、代表訴訟に関する改正によって株主が直接取締役の一般義務違反を追及するための道が開かれたことで、会社の社会的配慮のあり方にとどまらず一般的にみても株主の経営監視体制は強化されたことになる。会社に対して社会的配慮を備えた株主利益の追求が義務づけられたことには、コーポレート・ガバナンスの基本命題である「会社はだれのために、どのように運営されるべきか」という問いに対する一つの答えが示されているといっても過言ではないだろう。
|