本研究の目的は、十全な権利保護を受ける特許権者の利益と技術的範囲が明確な形で確定されることにより予測可能性を与えられる第三者の利益とをいかに調和させるべきかという視点から、特許発明の技術的範囲画定に関わる諸問題を検討し、その明確な判断枠組みの構築を行うことにある。このような観点から、本年度は、技術的範囲画定論の1つの中核をなす均等論制限理論に関して次の2点について研究を行った。第1は、いわゆる「審査経過禁反言」の法理について、上記の2つの利益の適切なバランスを図るべく、従前、必ずしも綿密な検討が行われてこなかった同法理の理論的根拠を解明した(根拠を信義則に求めることの可否を検討し、その内実探求を行った)上で、その判断構造を分析し、要件・効果の定立を行った。その際には、同様の法理が存在し、判例による判断基準の明瞭化が達成されつつあるアメリカ法の議論を調査・分析し、判断枠組み構築への基本的視座を獲得した。この成果をもとに、「審査経過禁反言の理論的根拠と判断枠組み」と題する論文を完成させた。第2は、出願時に置換容易性が認められる技術に対する均等論適用の可否に関する理論的検討である。ここでは、技術的範囲の明確化を最大限保障しつつ、特許権保護の十全化を図るには、技術的範囲の公示を担うクレーム作成に対する出願人の責任とその手続保障という見地から、出願時において当業者にクレームへの記載可能性が存在していなかった技術に対してのみ均等論の適用を認めればよいとの結論に達した。この研究の成果は、「出願時におけるクレームの記載可能性と均等論-原理間衡量モデルを用いて-」と題する論稿にまとめ、公表した。
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