平成17年度は、アメリカ合衆国のCM(大気清浄法)309条に基づく「環境審査」制度が、同国の環境アセスメント制度の実効性確保のために、いかに機能しているのかという観点から、歴史分析及び構造分析の一部を行った。分析の結果、次の諸点に関する基礎的な知見が得られた。 (1)環境審査制度の導入の背景には、わが国の環境基本法に相当するNEPA(国家環境政策法)に基づく環境アセスメント制度の機能不全が存在したこと (2)環境審査制度では、EIS(環境影響評価書)の審査・ランク付けを担当するEPA(環境保護庁)が、当該EISを準備した連邦機関に対して、環境上より好ましいと考えられる代替案や緩和措置の採用を働きかけていること (3)(2)で特定されたEPAの働きかけが功を奏する背景には、通常の省庁よりも一段階上のトップ(執行部)・レベルに位置するCEQの権威があり、結果として、環境上好ましいと評されるランクが付されるEISの割合が高まること これらの知見はいずれも基礎的なものであるが、環境審査制度が、環境アセスメント制度の実効性確保のために積極的に機能することを示す一つの証左となりうる。なお、暫定的なコメントになるが、環境審査制度類似の仕組みをわが国で採用する余地は少ないものと考えられる。環境審査制度は、環境アセスメント制度が拠って立つ「環境」概念の含意を踏まえ、緻密に設計された制度であり、かつ、その効用は、通常の省庁よりも一段階上のトップ(執行部)・レベルに位置するCEQの権威により担保されている部分が少なくない。アメリカ的な「環境」概念を受容しているわけではなく、トップ・レベルにCEQ類似の機関を有するわけでもないわが国では、理論と現実の制度の両面において、環境審査制度類似の仕組みを構築・運用するための前提条件が満たされていないように見える。
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