1.フランス福祉国家の基礎となる「社会的連帯」の理念の形成過程を、フランス革命期から20世紀初頭まで辿った研究を、単著『貧困と共和国-社会的連帯の誕生』(人文書院)として刊行した。 2.第三共和政期の「連帯」の理念が、戦間期に左右両派のコーポラティズム論へと援用され、戦後福祉国家の基礎となったこと、それが革新官僚のイニシアティヴによる労働者階級の統合という形で具体化されたことを明らかにした。この内容は2005年度日本政治学会にて報告した。 3.1970年代後半以降の「社会的排除」の顕在化を、コーポラティズム体制と結びついた「連帯」の理念の限界の表れとして検討した。「連帯」の秩序は、個人と社会の擬似契約に基づく相互義務関係から成る。1970年代以降、「連帯」の秩序は教育・就労義務を引き受けられない一定層の「排除」を内に抱え込むことになった。1980年以降の「連帯」の再生論は、個人を契約主体として再構成するという問題意識を共有している。その具体的展開として、参入最低所得(RMI)、地域コミュニティ政策を検討した上で、その問題点を指摘した。この研究は2005年度社会政策学会にて報告した。 4.20世紀の英仏福祉国家の形成過程を比較した。イギリスでは、国家と市場社会の二分法の伝統の上に、自由官僚の手によって集権的福祉国家の形成がなされた。フランスでは、中間集団自治を国家が補完するという「連帯」の秩序像を基礎として、戦後福祉国家の形成がなされた。二つの福祉国家を支える社会規範の相違、その形成過程の相違は、1980年以降の再編の分岐として表れている。
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