本研究における18年度の目標は、前年度に引き続いて文献研究ならびに数理モデルの研究を通じて「レンティア国家」概念を展開し、より広い「政治発展」概念の中に含めたフォーマル・モテル化を行うことであった。 上記の目的は、二編の論文を公刊することにより達成することができた。その内容を要約すると以下のようになる。まず一般的なケースでは経済が発展すればするほど、民主化することが「独裁制」の支配者集団にとって好ましい選択になっていく。しかしながら政府財政ににおける非税収部分の大きさ、すなわちレントの国民所得に占める割合が大きくなるほど、支配者集団の間にレントシーキング行動を誘発するようになり、これが民主化インセンティブをそぐことになる。中東湾岸産油国で王制や権威主義的共和制が維持されているのは上記のメカニズムが働くためである。 しかしながら原油レントが間接的な影響しか持たない非産油国だと、レンティア国家論のロジックは十令説得的だとはいえない。そこで政治体制の移行経路に重要な意味を持つのは、移行前の体制が持つ制度的特徴である、という「経路依存性アプローチ」を導入し、レンティア国家論を補強する議論を行った。Barbara Geddesは権威主義体制を「軍部支配体制」「一党支配体制」「個人支配体制」という理念型に分類し、それぞれが民主化しやすいか否かをゲーム理論でモテル化した。 本研究では民主化移行に対し最も頑健であるとされる「一党支配体制」であっても、経済危機に直面した場合に民主化へと向かう経路があることをモテル化した。さらに支配者の一族が主要官庁の閣僚ポストを独占するタイプの王制を「王朝型君主制」であると類型化したMichael Herbの説に倣い、これが「一党支配体制」と同じメカニズムで民主化圧力に対し頑健であることを示した。 「レンティア国家」モデルおよび「経路依存性アプローチ」が共に実証的根拠を持つことを示すため、1960年から1999年までの世界170力国のパネル・データを作成し、これを分析した。分析結果はモデルの導出した仮説を支持したことで、「民主化の波」にもかかわらず、中東の権威主義体制が持続していることを理論的かつ実証的に論じることに成功したといえる。
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