本研究最大の目的は、「極右」政党を組み込んで新たに登場した右派連合政権によって近年実現しつつある年金・医療保険制度改革において、「極右」政党独自が果たした独自のインパクトを、ドイツなど社会民主主義政党が政権の基軸に座る諸国との比較の中で確定することにある。 本年度は、2000年にオーストリアで成立した右派連合政権の年金・医療保険制度改革について、政権成立後から2002年の前倒し選挙まで、時系列的に跡付けた。それによって明らかになったのは、 1、第一に、保守政党と「極右」政党との政策的な近接性であった。「極右」政党は、移民政策や文化政策でその突出した独自性を示してきたが、年金・医療保険制度において、独自の包括的な改革プランを提示することはできなかった。その近接性は、年金・医療保険制度における「ネオリベラル政策」と「家族」という二つの柱にみてとることができる。政策上の焦点は、「個人化」への圧力と「家族」の価値をいかに守っていくかという二つの価値観の間の刷り合わせとして理解することが可能である。 2、しかしながら第二に、右派連合政権の年金・医療保険制度改革の実現プロセスのなかで、「右翼」政党が果たした役割は無視できない。それは、年金・医療保険制度改革のプロセスのなかで、「右翼」政党が、社会団体との関係を重視してこなかった、あるいは意図的に避けてきたことと関連している。そのため、ネオリベラルな政策の推進にさいして、「右翼」政党は、社会団体との長年にわたる利害関係から大胆な政策転換を躊躇する中道与党を連合与党として外から圧力をかけてきた。政府もこの圧力を政策実現に利用した。 3、右派連立政権は、「右翼」政党を政権内部に取り込んだことによって、よりラディカルな政策転換を可能にした。そして、伝統的な「家族」の価値をその政策転換のひとつの軸にすることが、両党の合意の基礎として、政策上も連合戦略上も重要な役割を果たしていることが明らかになった。
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