研究最終年度にあたり、これまでの研究成果を成果のかたちにまとめることに集中した。本研究は現代アメリカどフランスにおける政治哲学の比較分析を課題とするが、その一つの焦点は、そのいずれにおいてもあらためて注目を集めている思想家トクヴィルの再読解であった。この点について公刊したのが、研究成果にある『トクヴィル 平等と不平等の理論家』であり、本書は2007年度サントリー学芸賞(思想・歴史部門)を受賞した。選評で鹿島茂教授は、まさに本書が「アメリカ人にとってのトクヴィル」と「フランス人にとってのトクヴィル」の「分裂」を統合するものであることを指摘されているが、本研究の課題である、アメリカとフランスの政治哲学をトクヴィルを核に統合的に論じるという意図を評価していただいたと考えている。 その際に分析の中心となったのが「平等」概念である。単なる政治的・経済的な平等・不平等にとどまらず、個人の自己認識や社会認識に基づく想像力の上での平等に着目した成果は、現代日本分析にも応用されうる。そのことを示すのが、日本政治学会共通論題での報告「社会的分断を語る政治の文法はどう変わったのか-格差社会・希望・デモクラシー」である。これはまさしく現代アメリカ・フランスの政治哲学の比較を通じて抽出された平等論の現代的位相を、現代日本分析にあてはめたものであると言える。 さらに、書式のフォーマットの都合上記載できなかったが、単行本への収録論文として、「社会的紐帯の政治哲学-トクヴィルを中心に」(小川有美・遠藤誠治編『グローバル対話社会-力の秩序を超えて』明石書店、2007年9月、189-217頁)を執筆した。これはやはり現代の政治哲学の議論の焦点である社会的紐帯(社会関係資本、信頼)に関して、本研究の成果を応用したものである。
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