前年度から続く理論な検討作業を通じ、1990年代以降の年金改革においては、経済状況と人口動態の変化に対応しうる制度への再編という一般的要請の中で、各国の「政策遺制」とそれを前提にした諸アクターの戦略とがその帰結を左右する、という基本視角を確認した。その一方で、スウェーデンの90年代年金改革の経緯について、すでに入手していた年金問題審議会の答申、社会庁の報告書、国会法案および議事録を読み進めるとともに、再度の現地での資料収集を経て、国会委員会報告書、社民党の政策文書などを補いながら、(1)問題の背景、(2)審議会設置の経緯、(3)審議会内での議論とその結果、(4)新制度の概要とその意義、について整理した。 こうした作業をふまえ、従来の研究がこの改革を、政治的左派の退潮や社会構造変化への不可避的適応の結果としてとらえ、新制度の包括性。合理性を旧付加年金の制度構造や「脱政治化」された専門家による審議の帰結として理解する傾向にあったのに対し、本研究では、それらを一定程度受け入れながらも、なおも各社会に個別の改革の文脈を強調し、スウェーデンの場合はかつての福祉国家形成の延長線上に社民党の果たした役割に特段の注意が払われるべきであると主張する。すなわち、その過程で社民党内部に従前所得の補償から手続きと条件の平等化へという日標の転換が見られた点を認めつつ、新制度導入へといたる中では、保険料拠出期間の変更や、拠出金の自己運用部分の縮小、所得比例部分上限の賃金上昇インデクスの採用などに同党の主張が強く反映されている点を重視する。 以上のような成果、とりわけ比較研究に関わる知見の一部については、比較政治学会の叢書への分担執筆部分において発表し、残りの部分についても論稿にまとめる作業を進めている。
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