EU加盟25カ国および日本における移民の「市民的」活動を比較考察した結果、以下の観察が得られた。市民権を持たない移民が、移住した国家において「市民活動」を行い、市民的権利を獲得する現象が、とくに複数世代に渡る長期の定住を果たすオールドカマーがニューカマーと混在する地域において見られる。他方、オールドカマーが存在しないかもしくは著しく少数であり、かつニューカマーが近年増加傾向にある地域では、移民の市民活動は限定的であり、彼らの市民的権利も認められにくい。このような地域間の違いは一つの国家の中において見られ、移民を受け入れる国家が、一枚岩的に移民の市民権を認めるわけではない。 移民出身者が法的に市民権を持つ国家においては、逆説的にその市民権の中身が問題となる。移民出身者の市民活動への参加の度合いは、多数者のそれと比較して低い場合が多く、また彼らの市民活動自体が民族的もしくは宗教的な集団帰属を強め、かえって社会全体への統合を阻んでいるとの見解が、多文化主義に逆行する形で有力なものとなってきている。 市民権付与はあくまでも国家の主権に属するものであることは揺らがない。しかし市民権のない外国人居住者は、地方自治体にとっては市民権をもつ国民と同様に行政サービスを受け、「市民的」義務を果たすべき存在と見なされている。そして市民でありながら、いわば二級市民扱いを続けられる移民出身者の問題を、民主主義を標榜する国家が解決の糸口すらつかめていない状況に於いては、市民権を法的地位及び権利とのみとらえる見方には限界がある。
|