2年間の計画の第一年目である17年度は、日本での聴取状況や適切な器具の選定から始まった。調査の結果、日本でのアラビア語衛星放送の聴取状況には多大な困難があることが確認された。スカイ・パーフェクTVでの実権無料放送の停止後、日本で通常の市販のアンテナによって聴取できるアラビア語衛星放送はない。そのため大形アンテナの設置とそれによる電波の受信を検討したが、研究機関の施設に現状回復が不能になるまでの改変を行わなければ設置ができないほどの規模のものであり、また、それによってさえも受信できる放送局の数が極めて限られていることが調査の結果判明した。そこで現状ではインターネットを通じた主要な衛星放送のリアルタイムあるいはビデオによる視聴が実現可能な視聴方法であると結論づけ、インターネットを通じた視聴と、その記録媒体を設置し、衛星テレビ局が提供するホームページでのニュース配信をプリントアウトあるいはデータで逐次保存する態勢を整えた。また、日本における視聴に限界があることから、西欧諸国での調査を行い、アラビア語衛星放送のアラブ諸国外での受信状況を調査すると共に、それが思想状況へ与える影響を調査した。本年度の聴取の対象は主にイラク情勢をめぐる報道と論調や、レバノンやエジプトでの民主化の進展をめぐる報道と論調、パレスチナ・イスラエル紛争の進展をめぐる報道と論調であった。それらの聴取にもとづいて「アラブの発展モデル エジプトが試される時」「イラク史に塗り込められたテロと略奪の政治文化」「立憲主義を骨抜きにする「緊急事態法」の政治」「「新国家」成立を左右する「キルクーク問題」の行方」といった報告を刊行した。またイスラーム思想をめぐるメディア上での表象をめぐって論文「イスラーム政治思想における自と他」を発表した。国際テロリズムをめぐる報道と論調の調査を踏まえて論文「イスラーム社会とテロリズム」を刊行した。また、平成17年にはイギリスやフランスでイスラーム教徒が関係したテロや暴動が頻発しており、イスラーム教徒が関係した西欧における出来事をめぐる報道と論調も調査の対象とした。その結果を「ルールの変更を迫った寛容が非寛容を育む現実」「「取り残された若者たち」をフランスはどう扱うのか」「「取り残された若者たち」をフランスはどう扱うのか」「フランスの騒乱と差異の社会」といった報告にまとめた。
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