望ましい解雇法制のあり方を考えるべく、理論、実証双方の観点から研究に取り組んだ。本年の成果は(1)解雇法制に関する理論的分析、(2)解雇法制に効果に関する実証分析のための準備、(3)解雇法制を考える際に欠かせない、解雇法制に関連した事項に関する理論分析、である。(1)においては、契約理論のアプローチを用いて、違法解雇の救済方法について分析し、金銭的解決と職場復帰の効果の差異に着目した論文が国際学術誌に受理された。(2)では、解雇をめぐる実際の裁判例のデータ化の作業に尽力し、解雇をめぐる裁判の実態をうかがい知ることができた。調査そのものは途中であるが、裁判所まで至った案件は和解、判決、取下げなど様々であるが、個別解雇が全体のほとんどを占め、整理解雇は少ないことがわかった。来年度も調査を継続し、定量的な分析へ向けて作業を進め、解雇をめぐる裁判において地域格差があるか、景気の状態に影響を受けるか、また裁判が長期化しているかなどを明らかにしたい。(3)では、従業員の評価に関する問題を考え、私的な情報を開示しやすいインセンティブ・スキームについて分析した。従業員評価が不適当な場合、過小評価された従業員はその旨を主張するが、過大評価された者は訂正を申告しようとしない。従業員に高い成果をあげさせ、かつ、事後的に正直に情報を開示するような賃金スキームのあり方を考えた。そして、シンプルなボーナス型のスキームが、事前の努力のインセンティブと事後の情報開示のインセンティブを調和させるスキームであることを明らかにした。
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