研究概要 |
2005(平成17)度は,理論モデルによる定性的分析に重点をおいて研究を行った.この分析では,Daimond(1965)タイプの世代重複モデルを用いた.具体的なモデルの構造は,以下のとおりである.毎期新しい世代が経済に参入し,若年期と老年期の2期間を生きると仮定する.個人は若年期に働き,賃金を貯蓄して老年期に退職する.若年世代の労働供給は市場の歪みによって制限されるような状況を想定することで失業が描写し,一方,生産活動に付随する排出によって環境が悪化するという状況を想定することで,環境問題を描写した. この理論モデルを用いて,失業保険給付と労働賃金との関係をあらわす置換率に焦点を当て,置換率を一定に保つように社会保障税減税と環境税導入を実施する改革が,失業率と経済成長率,各世代の厚生にどのような影響を与えるかを分析した.分析の結果,以下のことが明らかになった:(1)経済成長率が上昇する;(2)失業率は一定に保たれる;(3)排出量が低下する;(4)改革実施時の老年世代の厚生が低下する一方,改革実施時の若年世代および将来世代の厚生は改善する;(5)世代間の所得移転を組み合わせると,全ての世代の厚生が改善される.したがって,置換率一定の改革に世代間所得移転を組み合わせることで,雇用を維持したまま成長率,環境水準,各世代の厚生を改善する政策が存在することが示された. 以上の研究結果を,Environmental tax-financed unemployment insurance : its effects on growth, employment, pollution and welfareというタイトルの論文にまとめる作業をおこなっている.
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