今年度の研究は、前年度からの研究を継続したものであったが、特に以下の二つのテーマに焦点を当てたものであった。 (1)日本における親子間の人的資本伝播メカニズムに関する実証的分析 前年度から継続して、日本における親子間の人的資本伝播メカニズムを、親の性別および子供の性別を明示的に考慮しつつ実証的に分析した。今年度は特に、親の期待が子どもの最終学歴に与える影響が、時代を通じて変化しているかという点に焦点を当てた。この研究成果は、日本経済学会秋季大会において報告された。国際比較を行うために、アメリカの分析も現在進めている最中である。 (2)労働市場メカニズムと最適な教育システム比較 前年度は労働市場における労働者間の補完性と教育システムの相互連関にも着目した研究を、大阪大学大学院国際公共政策大学院の瀧井克也助教授と共同で進めてきたが、今年度はそれらの研究成果をウィーン大学および精華大学(中国北京)で開催された二つの国際会議で報告することができ、さらに国際学術雑誌への投稿も完了した。また、継続的な研究として、企業のもつ組織資本に異質性があり、各労働者がそれぞれの人的資本に応じて異なる企業に配置される経済の動学モデルの分析を始めることができた。現在、この動学モデルを用いて公教育システムと私教育システムの比較を試みているが、モデルの性質上、解析的な分析が困難なため、モデルのカリブレーションおよびシミュレーションによって、数量的な教育システム比較をも行っている。 以上の2点のほかにも、高等教育と初等・中等教育の違いを考慮した動学モデルの分析にも着手することができた。
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