今年度も、民間銀行の貸出金利設定が硬直的な場合における最適金融政策の研究を行った。民間銀行が中央銀行の政策金利に反応して貸出金利を設定する場合に、すべての貸出先の金利を変更するのではなく一部の貸出先の適用金利のみを改定すると、将来の期待金利を考慮したフォワード・ルッキングな金利設定が行われる。これは、財の生産企業が硬直的価格設定(Calvo pricing)の下で行うそれと同様にして考えられ、ニューケインジアン・フィリップス曲線と同形状の金利設定関数が導出される。また、何のフリクションもない経済の下でこの銀行が設定する金利は、債券市場における金利と等しいと考えられるため、このモデルではあらゆる期間の長期金利を内生的に得ることができる。このとき、硬直的金利設定下での最適貸出金利は様々な長期金利の加重平均として表現され、そのウェイトは硬直性パラメータによって決定される。つまり、このモデルにおいて金利がより強直的になるということは、民間銀行の貸出がより長期貸出に重きを置く状況として考えられる。これは、このモデルで扱う「金利硬直性」の解釈が、一時的な新規貸出金利の硬直性を扱うものにとどまらず、ストカスティックに満期を振り分けられる状況として解釈できることを意味しており、より広義の金利硬直性としてみることができるだろう。 ただし、上のモデルでは硬直性パラメータを外生的に与えていたが、この金利硬直性がどのような要因で決定されるのかを併せて研究する必要がある。実際、アメリカでは94年を境にして金利のパス・スルーがほぼ完全になっているのに対し、イギリスではいまだにパス・スルーは不完全で、その程度は徐々に大きくなっていることが確認される。このような国ごとの差異あるいは時系列での差異はどんな要因で決まっているのかを考えることが重要である。この点は引き続き今年度の課題でもある。
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