1.研究目的 この研究の目的は、何らかの意味で合理性を制限された経済主体からなるマクロ経済モデルを構築することによって従来の「全知全能の経済主体」からなるモデルでは描写しきれない現象を理解し、新しい政策的メッセージを発信することである。 2.新たに得られた知見 本年度に着目したのは日本のデフレである。既存の理論によると、日本のように財政赤字に陥っている経済ではデフレよりもむしろインフレになっているはずである。日本経済に関する議論を見ても、その多くはデフレが不況の原因であり、デフレを取り除くことで日本経済が良くなるという論調であることに気が付く。本年度の研究では財政赤字ではなく累積赤字の増加スピードに着目し、累積のスピードがGDP成長を超えるとデフレ圧力が発生することを解明した。実はそのような状況下では動学システムにおける定常状態がなくなってしまう。つまり政府が破綻経路にいることを意味する。既存の理論に忠実である場合、遠い将来に政府が破綻することを合理的な経済主体が知るので、それは合理的期待均衡を形成できない。平たく言うと、分析から除外されてしまうのである。そこで、意思決定の際に無限の将来まで考えない経済主体と、財政破綻ギリギリまで財政再建を行わない政府からなるマクロモデルを構築し、その性質を分析した。その結果、既存の分析では無視されてきた破綻経路上の経済を分析することが可能になり、日本経済のデフレは財政破綻経路上で発生していることを発見した。さらに、デフレを克服するために財政再建が必要だという新しい政策的メッセージも得ることができた。
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