本年度の研究においては、昨年度の研究において提案された共和分の存在するシステムにおける構造変化の検定理論をさらに発展させた。 昨年度の研究においては、「構造変化を伴った共和分関係が存在する」という帰無仮説を「共和分関係が存在しない」という対立仮説に対して検定するための理論を提案した。特に構造変化の時点が未知の場合には、構造変化の時点を推定してその推定量を検定統計量の一部とするため漸近理論は構造変化の時点が既知の場合と較べかなり複雑になる。昨年度の研究においては特殊ケースのみを想定していたが、本年度の研究においては非常に一般的な状況における検定理論を導出した。 本年度の研究においては構造変化の大きさが検定理論に与える影響を厳密に議論を行った。本研究で想定している非常に一般的な枠組みでは構造変化点の漸近的な性質さえ明らかになっていないため、まずは変化点の漸近的性質を分析した。そこでは構造変化の大きさと推定量の収束速度との関係も明らかにされた。 次に変化点の推定量の漸近的性質を基にして検定統計量と構造変化の大きさの漸近的性質を厳密に議論した。そこでは構造変化点の一致推定量が得られる限り提案された検定理論は有効でありあたかも構造変化点が既知であるように振舞うことが出来るということが明らかになった。しかし構造変化の大きさが標本数に比べ非常に小さい場合構造変化の時点の推定量は一致性を持たず、さらに検定も一致性を持たないことが示された。以上のことが厳密に理論的に明らかにされたということが本研究の貢献である。これらの結果は実際にデータを用いて実証分析を行った際に、その結果がどの程度信頼できるものかということを考える際において指針となる。
|