研究概要 |
臓器提供行動は公共財の自発的な供給行動である.とくに臓器提供の場合、各個人に金銭的見返りは期待できない.そこで金銭的利得に加えて、その個人が暮らす社会の公正(適正)具合から発生する心理的利得を理論的に扱うべく研究をすすめた.当初の研究計画にあったネットワークモデルの応用はこの公共財供給モデルの基本設定を構築してから進めることにした. 脳科学を基礎に心理の進化をモデル化すべく17年夏にマックスプランク研究所(ドイツ連邦共和国)にて行われた限定合理性研究のSummer instituteにて私の論文「Coordination games with asymmetric link costs」をポスター報告した。意見交換を行い同研究所のニューロエコノミクス(神経経済学)の研究成果と臓器提供モデルとの接点を探った.そして,プレイヤーの心理的側面が社会の状態から影響を受けた上で戦略的行動を学習していく進化ゲームモデルを構築した.それを応用した論文「(労働)契約における思いやり・意図・互恵性-進化ゲーム理論の応用-」(2006)を作成し18年2月に「神戸大学六甲フォーラム」で報告した.タイトルに労働とあるがこれは、研究テーマである臓器提供(公共財)の分析にそのまま転用可能な「互恵性・思いやりの進化モデル」を開発し、このモデルの数学的性質を最もシンプルな形で表すために労働契約の例をあげたに過ぎない. この新たな「進化的な思いやり・意図・互恵性のモデル」を構築することで当初の研究計画で想定したとおり適切な選好の進化モデルには大規模なシミュレーションが必要であることが判明した。コンピューター代数を用いたシュミレーションを開始し、平成18年度はアンケートもしくは実験による実際のデータ収集と開発したモデルの公共財供給(臓器提供)モデルへの適正な応用論文作成が本研究の主務となる.
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