本研究では第一に、ホームレスに陥りそうな人々の居住地選択を考慮した効用最大化問題から所得の減少および最低住宅敷地規模の改善がホームレスを発生させることを明らかにした。人々はホームレスに陥ると、自由に公共空間を占有できる。仕事場までの交通費を節約できること、および仕事関係の情報交換や食料交換などの集積の利益を得られることから、ホームレスは都心に集中しやすい傾向にあるが、同時に一地点のホームレス人口の増加は食料確保の競争を生み、これが分散力として働く。これらの動きが含まれた上記理論モデルを用いて、本研究では第二に、ホームレスが都市中心部のみに集中するパターンと、都心に多く、郊外に少ないパターンの2つの可能性があることを示した。ただし、どちらのパターンもホームレスの人口密度は都心ほど高くなることに変わりはない。さらに本研究では、第三として、大阪市立大学が行った大阪市のホームレス概数調査を使用し、理論モデルを実証的に分析した。その結果、ホームレスは、都市中心部の代理変数である従業者数の多い地区や駅舎数の多い地区に多くいることを示しただけではなく、集積の利益を示す変数であるホームレスの数が多い地区の近隣に多くいることを明らかにした。第四に、ホームレスの公共空間の占有は都市住民の厚生を悪化させるため、これを改善する手段として、都市住民から税を徴収し、郊外にホームレスのための住宅を建設し、同時に都心までの通勤費を手当する政策を検討した。この政策の特徴は、一定数のホームレスを用意した住居に移転させると、集積の利益からその他のホームレスも自発的に用意した住居に移転することにある。大阪府のデータからパラメーターの値を決め、シミュレーション分析した結果、このような政策が、ホームレスの厚生を上げるだけではなく、都市住民の厚生も改善させ、かつ都心の地代の上昇に貢献することを明らかにした。
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