研究概要 |
本年度は,前年度に構築した価格競争効果と所得効果を含む(閉鎖経済,かつ,静学の)独占的競争の一般均衡理論を,空間経済モデルに拡張した. 第一に,労働者の国際(地域)間移住を捨象した開放経済モデルを構築した.従来のCES効用関数を用いた独占的競争の枠組みでは,マークアップ率が一定であり,貿易開始後にも変化しないため,貿易利益は財の多様性の増大のみに集約されていた.それとは対照的に,前年度に構築したCARA効用関数を用いた枠組みは,価格競争効果を含むので,貿易利益が財の多様性の増大と個々の財価格の下落に分離可能となった.また,CES効用関数を用いた枠組みとは異なり,CARA効用関数の枠組みでは,企業数が多くなるにつれ,価格が限界費用に収束する(極限定理が成立する)ので,経済統合が価格の歪みを是正し,効率性を高めることを明らかにした. 第二に,都市経済学の基本モデルである単一中心都市モデルを構築した.Abdel-Rahman and Fujita(1990,Journal of Regional Science)は,CES生産関数を用いた枠組みで,不完全競争があるにも関わらず,Henry George定理(HGT)が次善の経済で成立することを証明した.この結果に対し,Fujita, Mori, Henderson and Kanemoto(2004,Handbook of Regional and Urban Economics)はHGTの成立は関数型に依存する可能性があることを示唆している.そこで,CARA効用関数を用いた枠組みで,HGTが次善の経済で成立するかどうかを分析し,HGTの不成立を明らかにした.さらに,より一般的な独占的競争が行われている単一中心都市モデルにおいて,HGTが次善の経済で成立するための必要十分条件を明らかにした.
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