新薬の開発においては、企業間での共同のあり方が重要である。共同研究開発は、より短期間に目指す製品分野への参入を可能にする手段であるとされ、また理論的にも競争環境によってその成否が左右される。そのような重要性に鑑み、本年度は特に新薬開発における企業間の共同関係の分析を中心に行った。 使用したデータは、個別の医薬品開発プロジェクトについて、その開発主体や開発期間、薬効分野などの情報を含むものである。収録されているプロジェクトには、最終的に新薬として承認されたものだけでなく、途中で開発が注しないし中断となったものも含まれる。これに基づく分析を行った結果、以下の諸点が明らかになった。 まず、研究開発において他企業と共同する割合は、企業間で大きな格差がある。比較的小規模、あるいは比較的研究開発強度が低い企業の方が、より高い比率で共同研究開発を行っている。また、製薬業を本業としない企業では、他社が発見した化合物を新薬に育て上げるという形での協力関係が、有意に他よりも低いということも示された。 時系列的な動向に関する観察事実としては、特に1990年代後半以降、外資系企業による共同研究開発の比率が低下している点が特徴的である。1990年代前半から外資系の製薬企業が日本での活動を本格化させており、以前のように日本企業との共同治験によって日本市場での承認を得るということが少なくなってきたこと、および治験内容が国際的に共通化されてきたことが、このような動きの背景にあると考えられる。 共同研究開発の形態に着目すると、ある企業が発見した化合物を別の企業が治験するタイプと、治験を複数の企業が共同実施するタイプとでは、それらが盛んに行われる分野が異なるなど、いくつかの基本的な点で異なっており、こうした形態の区別が、この種の分析を行う際には重要な区別になることも示唆されている。
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