本年度の本研究の成果は大きく分けて次の2点です。 1、1994〜2000年のロシア長期モニタリング調査(RLMS)の個票データを用いて、都市と農村それぞれの貧困動態(非貧困、一時的貧困、慢性的貧困)と労働力状態(就業、失業、非労働力)との関係を分析し、移行経済下ロシアの都市と農村の貧困の相違点を明らかにした。主な結論は以下のようになる。 (1)金融危機以降の経済成長によって、都市でも農村でも貧困が減少したが、貧困削減のテンポは農村よりも都市の方が速い。 (2)都市の一時的貧困はワーキング・プアーとの連関が強いのに対し、農村の一時的貧困は、ワーキング・プアーだけでなく非労働力人口内の隠れた失業とも連関している傾向が強い。 (3)慢性的失業と失業の間にプラスの連関がみられるが、都市でも農村でも、慢性的貧困者の多くが就業者であった。また、農村の慢性的貧困は、顕在失業だけでなく初級の職業(例えば、非熟練の農業労働者等)とも関係していた。 (4)農村の貧困は低賃金と農外雇用の不足が原因であると想定でき、従って、農村の貧困削減は都市の貧困削減よりも困難である。貧困者のターゲティング等の社会的支援は、政府の財政状況や経済成長に大きく依存し、また、ロシアの経済成長は石油・ガス価格等の外的条件に大きく左右される。持続的な貧困削減のためには、受動的な貧困削減対策だけでなく、各家計や個々人が自立的に貧困から抜け出せるような政策が重要である。 2、2005年5〜6月の2ヶ月間、モスクワ市とその周辺部に住む約20世帯に対し「ロシアの経済不安定化に関する家計の行動戦略」調査を実施した。調査方法は調査票に基づきライフ・ヒストリーを聞くという方法であり、調査結果を調査資料としてまとめた。
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