本年度の研究の具体的な内容だが、国内政府が民間家計及び生産者から徴収した税収を用いて環境保護を実施する政策を想定し、どの税収を環境保護に移転すれば、環境汚染が最も減少し、かつ国内税収及び経済厚生を最も向上させることが可能なのか一般均衡分析の下で分析することである。本研究により得られた知見として、政府が環境保護を目的として環境税の税率を上昇させる場合、ある条件下では、政府が消費税収入を用いて環境保護活動を行う方が、環境税収入を用いて環境保護活動を行うよりも国内厚生面ならびに税収面において望ましい結果を得た。この結果は、環境税が環境保護のための目的税であり、環境税収入は環境保護に充当するべきであるといった従来の考え方に対し警鐘を鳴らすと共に、一般税収である消費税収入の環境保護への利用可能性を提示したという点で斬新な結果であると考えている。 次に、国際貿易の観点から国内の自由貿易政策が、環境汚染、国内税収ならびに厚生に与える影響の理論分析も行った。具体的には、国内政府が環境税収入および関税収入を財源として環境保護活動を行うことを想定し、国内の関税率削減が、環境汚染ならびに厚生等に与える影響を比較静学により考察した。得られた知見として、国内の関税率の削減は必ずしも政府の環境保護活動を促進するとは限らず、逆に、関税率の削減が、環境税収入ならびに関税収入の下落を招き、政府の環境保護活動の減少を招くことで、国内の厚生が下落する場合があるという結果を得た。これは、当該国の関税率の削減が環境保護を促進するという従来の先行研究の結果が、政府の環境保護活動を考慮した場合、必ずしも成立しないという点を見出したという意味で斬新であり、社会的にも、政府の環境保護活動がさかんで、自由貿易を推進している国々に対して、自由貿易と環境保護の両立を実現する上で、意義のある結果であると考えている。
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