本研究では、タイ国自動車産業をフィールドとして、途上国の製造業がどのように製品開発能力を構築していくのかを考察するものであった。当初は、「製品開発能力」という定義で議論を進めていたが、最終的には、より幅広い活動を包含した「ものづくり能力」という概念に発展していった。それは、製品開発をエンジニアリングの領域だけではなく、QCDの上流部分にある「高度な改善」活動も含めてモデル化することが必要不可欠であるという結論に至ったためである。 タイ国の自動車産業は、1960年代から発展を続けており、その中でタイ系の部品メーカーも重要な役割を担うようになってきた。しかし、今後の「製品開発もタイ国内で」というフェーズにおいては、タイ系企業の現有能力が不充分であるといわれている。それは、これまでの貸与図生産を中心とした役割を果たすだけの能力は備えているが、通常の生産活動の中でも推進されるべき改善の経験が不足しており、そのために生産の上流部分にあたる製品開発を担うための能力が備わっていないというところによるものである。日本の部品メーカーの過去の経験を見ると、QCDレベルでの「改善の経験がmodified designへの挑戦、そして承認図生産へと向かう過程で重要な役割を果たしており、その点から考えると、たとえサブライヤーシステムの中で一定のQCDレベルを満たしていても、改善の経験蓄積がなければ製品開発に参画することは困難であるということが明らかになった。これは、安定的な経営環境の中で改善を積極的に推進しようというインセンティブが働かなかったこと、そしてQCDレベルの改善経験の重要性が十分に理解されていなかった結果である。その点から、本研究では、上述のとおり「高度な改善」までも製品開発活動の一部であるとして「ものづくり能力」という枠組みのモデル化を試みた。
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