研究概要 |
人口構造変化が「社会保障費用負担」を通じ、経済成長に与える影響について分析する理論モデルを構築した。具体的には「医療(介護)財」部門と「その他財」部門からなる2部門小国開放世代重複モデルを構築し、人口の高齢化(長寿化と少子化)にともなう医療(介護)需要の増加が、経済の産業構造、経済成長率に与える影響について考察を行った。主要な結果は以下のようにまとめられる。 長寿化により高齢者の医療(介護)需要が増加するので、「医療(介護)財」部門ではより多くの労働力が必要となる。しかし少子化により経済の総労働力人口は減少する。そのため、人口の高齢化により「その他財」部門から「医療(介護)財」部門への労働移動が引き起こされる。経済の長期的な成長率は「その他財」部門における技術進歩率に強く依存する。人口の高齢化による「医療(介護)財」部門への労働移動は、労働者が「その他財」部門での労働経験を通じ技術を習得する機会の減少を招く。こうした機会の減少がLearning by doing効果を弱め、「その他財」部門における技術進歩率の低下をもたらす。その結果、人口の高齢化にともなう、産業構造の変化は、長期的な成長率に負の影響をもたらす可能性がある。こうした枠組みの下では、仮に有効な少子化対策をこうじることで、出生率を上昇させることができるならば、産業構造の変化のスピードを緩め、経済成長率の低下の影響をある程度を抑えることができる。 以上の分析結果をDiscussion Paper "Population Aging, Increasing Demand for Health Care, Structural Change, and Growth"として整理した。
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