本研究はどのような所得再分配の制度を人々が選好するのかを実験経済学的な手段を用いた研究で明らかにすることを目的とする。現実の社会における政治参加の場で意思表示をする際に自分の現時点での状況に有利になるようにバイアスがかかるため、再分配に関する真の選好が表明されるとは考えられない。そこで仮想的なバイアスをこのグループに与えることでバイアスが表明される選好に与える影響について検証を行った。 具体的な実験手法としてはまず被験者に課題の出来に応じた報酬を払うことを説明し、その上で報酬の再分配についての選好を10段階で尋ねる。10段階の0は全く再分配を行わない状況であり、10は全所得が再分配されるため全員の報酬が同じになる。課題は文章中の漢字の間違いを指摘するものであるが、その事は事前には説明しない。解答させた後実際に課題をこなし、その上で課題の出来の自己評価と再分配の選好をもう一度尋ねた。 実験の結果は、まず平均として課題終了後の方がより高い割合の再分配を望むようになり、また課題の出来の自己評価が低い主体ほどより高い再分配を望む傾向が見られた。これは再分配の選好が堅牢なものではなく、自己評価が揺らげば容易に変化しうることを示唆する。 再分配は全く行わない場合と、あらかじめ得点の40%を再分配する場合(どちらも事前にそうすることは被験者に知らされる)と2つのパターンで実験を行ったが、再分配の選好の程度に差は見られなかった。このことから再分配の現行制度に選好が影響を受けるとはいえないと考えられる。また再分配の程度の選好を絶対水準で評価すると性別や学年・年齢は関係しなかった。これらは類似の先行研究とは異なっており、欧米と日本の差として捉えられる。
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