本研究は、就業の場を「企業」「NPO」「創業」の3つに大別し、「労働需要」「転職」「再教育」を共通の分析視角としながら、各場における就業者個人のキャリアパスを軸とする重層的な分析を展開することを目的としている。 本年度は、まず「企業」に関して、昨年度取りまとめた中小企業397社を対象とするパイロット調査を前提に実施した、電気機械器具・情報通信機械器具・電子部品・デバイス分野の中小企業5000社を対象とする本調査の結果に基づく雑誌論文を公表した。347社の分析から、生産現場が直面している雇用難が、やはり労働者の質的低下に拠るものであり、平行して実施した中国における聞きとり調査からも、生産拠点の海外移転等と切り離せない関係にあることが分かった。同時に、企業内での教育研修・訓練は一定の成果を上げており、むしろ学校教育が人材育成において十分に機能していない可能性を示唆するものであった。この結果を踏まえて、さらに近接分野の中小企業4821社を対象に追加調査を実施し、回収された743社について分析を進めている。 加えて、近年顕著な企業における成果重視の動向が、本来の人事制度改革の目的を達成し、パフォーマンスを向上させているのかという問題意識から、上場企業を中心とする5000社を対象に昨年度実施した調査票調査「人事制度改革と成果主義に関する調査」については、回収された455社に関する公表データを購入し、調査データと合わせて分析を進めている。 一方、「NPO」に関しては、外部研究機関におけるプロジェクトと連動させている。NPOにおける個別団体の状況と労働条件が、活動に対する満足度や継続意思に与える影響を、調査票および聞きとり調査の双方から分析した成果は、この研究期間内に『NPOの有給職員とボランティア』『NPO就労発展への道』と題する報告書に取りまとめ、学会報告等を重ねている。
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