研究概要 |
金融派生証券価格理論においては,まず原資産価格の変動を表すモデルとして,例えば対数正規過程などの確率過程が与えられる.次に派生証券は、ヨーロピアン型の場合では,派生証券満期におけるペイオフとして特徴付けられ,これはモデルの上では満期時点における原資産価格の関数として与えられる.そして,当該金融派生証券の現在時点における価格は,満期でのペイオフの割引現在価値の期待値を,いわゆるリスク中立確率測度のもとでとることによって得られる.これが,無裁定価格理論の概要である.本研究は,金融派生証券価格を非対称情報のもとで考察することを目標としてスタートした. 平成17年度における本研究の研究実績の概要は以下の通りである.通常,金融派生証券価格理論で用いられる確率過程の時変数は,いわゆる連続時間のモデルの場合では,実軸上の区間であるが,本研究では,偏在する非対称情報が投資家による取引によって次第に共有されつつ,新たな非対称情報が局所的に発生するという状況のモデル化を念頭に置き,確率過程の時変数としてp進数体をとるものを考察した.p進数体は視覚的には枝が次第に合流してゆくツリーとして捉えられ,偏在する情報の時間的推移を表すことに応用され得ると考えられるからである.p進時変数を持つ確率過程としては,Bikulov and Volovich (1997)によるBrown運動があるが,本研究では,これをさらに発展させ,p進時変数のfractional Brown運動を考察し,fractional Brown運動による対称確率積分を定義し,Malliavinの発散作用素との関連を論じた.
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