平成17年度は、当該研究の初年度であることから、論文作成の基礎となる資料およびデータの取得を進めた。具体的には科研費により、アジア地域の金融機関の財務データを購入し、また、シンガポール出張などアジア諸国への訪問によりアジア各国の金融政策および銀行システムについての資料を収集した。次年度の論文作成に必要不可欠なデータや資料などを本年度に得ることができたといえる。すでに、データや資料の整理を開始しており、これらを利用して来年度には論文を作成する予定である。 第一に、論文では、アジア諸国における銀行貸出と不動産価格の関係を分析することによって、主に不動産担保を中心とした金融機関の貸出の問題点について明らかにする。このため、本年度は、アジア諸国における金融機関の貸出や不動産価格などのマクロデータに加え、各金融機関の財務データも入手した。データからは、危機直後の期間に、銀行貸出の減少と不動産価格の下落、金利の上昇がアジア各国に共通して発生していることがわかった。しかし、銀行貸出の減少が不動産価格の下落ほど大きくないケースが多く、また、銀行貸出の増加している期間において、不動産価格の上昇がそれほど顕著でないケースもあった。 第二に、アジア地域の銀行の規律付けについての論文も作成する予定である。このため、購入した銀行財務データのほか、アジア諸国の銀行システムに関連する資料も本年度に収集した。アジア諸国では主に危機後、銀行の再編などが行われており、研究の対象地域として予定しているタイやマレーシア、シンガポールなどにおける、国内金融機関の破綻や金融機関同士の吸収・合併といった過去の金融システムについての情報を得た。これらの情報とデータを用いて、どのような金融機関が破綻し、また、どういった要因が銀行行動や経営に影響を及ぼしたのかを、各国政府の金融政策や規制なども考慮しながら明らかにしていく。
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