本年度の研究成果としては拙著『両大戦間期における銀行合同政策の展開』を刊行したことが挙げられる。拙著では1920年代半ば以降の銀行合同政策を中心とする金融規制の形成の要因として金本位制復帰問題(銀行整理を通じた「財界整理」の推進)が重要な影響を与えていることを明らかにした。その上で、金本位制復帰問題の影響は内国金融の再編成に止まらず、台湾・朝鮮の植民地中央銀行の再建問題にも影響を与えたことを明らかにした。具体的には、これらの銀行への日本銀行特別融通の供与とその回収にあたっても、急激な回収が植民地中央の経営破綻、ひいては植民地統治の混乱を惹起する恐れがあることから、このような事態の発生を防止するために、これらの銀行には債務を一部放棄し、かつ回収期限を一般の銀行よりも延長するなどの措置が採られた。この結果、金本位制復帰後の日本銀行による金融調整を円滑化する上でも、国内の銀行からの資金回収がより一層重視されることになり、内国金融における信用収縮の重要な要因のひとつになったことを指摘した。その上で、このような金本位制復帰問題を契機に成立した政策体系、とりわけ銀行経営規制は、逆説的に管理通貨制度の下で現代的な金融政策の一環として定着したことを明らかにした。 このほか、本年度に行なった作業としては、横浜正金銀行の経営史料の収集と為替政策に関する基本史料の収集が挙げられる。前者については、両大戦間期の位置づけを明確化する必要性が生じたことから、明治期に遡って分析をすべく史料収集を行い、一部についてはその分析を進めた。なお、これらに関する史料は予想以上に膨大なために、現段階では関連史料をすべて収集しきれていない。来年度は、『昭和財政史資料』や国会図書館所蔵の歴代蔵相関係の史料、日本銀行所蔵史料の収集を図り、関係資料の収集を完了させるとともに、横浜正金銀行の経営動向についての研究を論文化したいと考えている。その上で、為替政策についても可能な限り成果を挙げたいと考えている。
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