本研究の目的は(a)キングス・リンのフリーメン、非フリーメンに関するデータベースを構築し、それを基に都市コミュニティの構成員とエリート、それらの時代的変化を各種公記録から析出する(b)エリートのソーシャビリティ、社会的ネットワーク、都市観、一般市民との関係を手紙や日記などの記述的史料から明らかにすることである。本年度は主に(a)を中心に作業を進めた。 本年度の研究計画として、(1)1680年から1830年のフリーメン・徒弟分析(2)課税記録分析(3)都市自治体法(1835年)前後の住民分析とあげたが、徒弟分析以外はほぼ、計画を遂行できた。フリーメン分析(史料:フリーメン記録・徒弟記録)は、長期の18世紀中に起こった変化を示せるよう、長期の18世紀に突入する以前の1630年代から始め、ほぼ200年にわたる流れを明らかにした。課税記録(史料:救貧税記録・教会税記録)は全期間を通してみることはできなかったが、期間中の数時点をとって流れをつかむとともに、(3)の計画と重なる1820年〜30年代の記録を詳細に分析した。また、1835年ごろの住民分析は、主に選挙権保持者名簿とセンサスを利用した。これら(1)〜(3)の作業を進める中で、とくに職業、収入や資産を反映する納税額、そして選挙権の視点から、エリートやミドリング・ソートのデータベース構築したことが、今年度の中心的作業であった。これはまだ完成していないが、作成過程で、フリーメンと納税者や、商工業人名録登録者とフリーメンの重なりの少なさや、選挙権保持者と納税者、納税額の興味深い関係が見えてきた。 フリーメンに関しては大分データが集まってきたので、フリーメン制度について12月に論文をまとめた(『三田商学研究』48-5)。従来、フリーメン制度の意義として、営業特権や国会議員選挙権の獲得が議論されてきたが、とりわけ長期の18世紀末になると、むしろ福祉や市民としてのアイデンティティや独立、社会的信用獲得手段としての重要性が、時代が進むにつれ強まっていった点をこの論文では強調した。
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