長期の18世紀イギリス都市における多様なエリートと彼らを支えるミドリングソートが作るコミュニティの実態を分析し、可能な限り、統計的。数量的に把握することが本研究の目的である。今年度は、キングス・リンのフリーメン、非フリーメンに関するデータベースを充実させ、その整理に大半を費やした。昨年度に引き続き、当該期間の入手可能な商工業人名録全て、選挙人名簿、救貧税記録、徒弟記録データの入力を済ませ、既にできているフリーメン記録と合わせて分析を進めた。加えて、マイクロフィルム化がようやく終わった市参事会議事録と四季裁判所記録を詳細に読み進めている。これらの記録は数値化が難しい史料のため、いかにしてデータベースの中にこれらから得られる情報を組み込んでいくか、引き続き考えていかなければならない。 本研究のもう1つの柱は、都市エリートのソーシャビリティ、社会的ネットワーク、都市観といったものを、日記や手紙などの叙述的史料から明らかにすることである。キングス・リンと深い関わりをもつAnthony Hamondの親戚、Joseph Farringtonの書いた日記(刊行史料)の読み進めを行った。 3月に渡英した際は、主にBritish LibraryとNat ional Archives、London大学図書館を利用し、他都市の商工業人名録や選挙人名簿、投票簿を検討した。この比較検討の結果、キングス。リンの特殊性も見えてきた。 上述のように、データベース構築作業と日記の読み進めに集中したため、論文というまとまったI形になる成果は出なかったが、イギリス地方都市エリートの再定義の可能性と、都市コミュニティの構成員に関する新たな見方はでてきた。この成果は次年度にまとめる予定である。
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