研究概要 |
本年度は,(1)地域の起業家活動におけるネットワークの役割に関する国内外の先行研究を厳密にサーベイし,分析の理論視角を確立するとともに,(2)福岡県大川地域,長崎地域,福井県鯖江地域,愛知県常滑地域において,起業家ネットワークの実態を資料分析およびフィールドワークなどの定性的調査手法により把握につとめた。 調査研究の結果,(1)経験的研究の展開における4つの研究課題を確認するとともに,(2)収集した定性的な経験データの暫定的な分析を通して,これら4つの研究課題に対応するいくつかの発見事実を得た。なお,4つの研究課題は,(1)起業家活動におけるネットワークそのものの観察を通して,実態をより反映した起業家ネットワーク概念の操作的定義を開発する必要がある,(2)起業家活動のプロセスに沿った性質の異なるネットワークを区別し,起業家活動におけるネットワークの役割の経験的知見を導出する必要がある,(3)起業家活動におけるネットワークの役割の考察においては,(1)起業家がいかに社会的なネットワークを利用して,問題解決の協力者を巻き込んでいくか,(2)起業家がいかに協力者間のダイナミックな相互作用を促し問題の解決を進めていくか,の2つの論点に関する記述的な分析が有効である,(4)起業家活動は社会に「埋め込まれた」行為としての性質を備えることから,起業家ネットワークの形成・展開プロセスに対して地域特性などの社会的文脈の影響の考慮が不可欠である,である。 以上の研究成果について,1篇の論文(『企業者ネットワークに関する経験的研究の現状と展望』)を執筆するとともに,現在,収集した定性データに関する2篇のディスカッションペーパーを執筆中である。
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