本年度は研究期間の初年度であり、主に参与観察に基づくデータ収集を行った。神奈川県に所在する自動車ディーラーK社の2店舗について、その販売プロセスおよび各販売員の業務内容を把握したのが主なデータ収集の成果である。 K社では、商品の提供を受けるメーカーの営業部門から効率的な販売手法についての改善提案を受けている。K社は、それを導入しているのだが、メーカー側の提案をそのまま受け入れるのではなく、自社のプロセスに適合するように改変を加えている。 しかし、それでもなお店舗への定着には問題を抱えていることが参与観察の結果明らかになった。その大きな原因としては、まず既存の販売プロセスとの適合性が挙げられる。実際、多くの販売員が、自分たちのノウハウが結実した「個人的」なシステムを維持しており、結果としてシステムが二重化している。そして、重要な情報であるほど、新しいシステムではなく、旧来の個人的なシステムで管理していることがわかった。 さらにインタビュー調査で問題の掘り下げていくと、こうした個人的なシステムが維持されているのは、新しいシステムが「機能的に不十分」であるというより、販売員の知識体系や信念との整合性が取れていないためであることが示唆された。 次年度以降は、こうしたデータ収集を続ける共に、こうしたデータを知識と技術のマネジメントの観点から理論的に説明を加え、外部からの知識移転がどのように改変され、受け入れられていくのかについて論文としてまとめる予定である。
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