本研究の目的は、持続的な高年齢者雇用に必要な企業の人的資源管理システムについて検討することにある。本年度は高年齢者の就業意識に着目し、その特徴を考察した上で、雇用とともに引退プロセスに焦点を当て分析を行った。 これまで高年齢者の雇用問題の議論は、いかに雇用を促進するかが中心であった。しかし企業は人々の要請に応じていく社会的存在であると同時に、利潤を追求する経済組織なのであり、それゆえ法改正や制度設計が行われようとも、企業は必要人材と判定した高齢従業員を選抜し限定的に雇用継続をしたいというインセンティブを持つ。よって高年齢者の雇用は雇用継続・不雇用継続の選抜が暗黙的に前提となるのであり、雇用のマネジメントは引退のマネジメントと表裏一体を成している。 日本の高年齢者は他国に比して職場での協力体制や経営理念を重要視し、組織との一体感が強く、こうした就業意識は、従来企業での雇用継続希望率を高めている。しかし上述のとおり、その一部が他社へ転職もしくは引退していくことがやむを得ず望まれる。この時、雇用継続者の選抜に伴う摩擦回避の一助となるのが、雇用される可能性について自ら気づかせる人事管理のプロセスである。比較的円滑に雇用を行っている企業では、雇用継続の場合は自分で雇用・不雇用の判定を行う「自己選別」によって、転職の場合は非自発から自発への「すりかえ合意」によって、当初は想定していなかった選択肢を、最終的にはあたかも自分で選んだかのように納得し受け入れる摩擦回避のマネジメントが実現されていた。 これらの背後にある「なんとなく知らせる仕組み」は、長期にわたる一貫した人事管理の下で、計画的な人事異動・ジョブローテーションや、職業人生の全体を見越したキャリアセミナーやカウンセリングが行われることによって成立している。その土台となっているのは、日本企業の本来的特徴である、長期的視点に基づく安定的な雇用関係であると考えられる。
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