本年度の研究実績は映画産業に関連するものが多かった。これまで調査を続けてきた映画製作プロダクションの組織戦略についての研究では、(1)大手映画会社から独立しており、(2)下請けではなく、著作権を有した映画製作を行いながら、(3)10年以上もの間経営されてきた、というこの産業においてはベンチマークとなるような稀有の3つのプロダクション(テレビマンユニオン、ロボット、アルタミラピクチャーズ)に焦点を当て、インタビューデータの分析を行った。そこから得られたのは、これらのプロダクションが長期的に競争力を持ち得た理由として、以下のように幾つかの要素を有していたことである。すなわち、映画製作以外に安定的な収益源を有していること、大手配給会社に依存しすぎないように独自の配給経路を確保しようと努力していること、そして新卒で従業員を採用し、クリエイターとして自社で人材育成を行っているということである。とくに、最後の人材育成は容易に他社に模倣されない競争優位性を確立するための要となっていることが見つかった。 コンテンツ産業全体についての考察を行った研究では、1996年から2004年までの9年間において、興行収入において上位を占める映画作品がどのような製作者によって製作されているのかについて、その割合を時系列で示すことを試みた。その結果明らかとなったのは、TV放送局の大きな影響力であった。放送局と大手映画会社の提携作品の割合は1996年次は30%にも満たなかったのに対し、その割合は年々増加しつづけ、最新データである2004年には約70%にものぼっている。これらのことより、伝統的な大手映画会社による映画産業の支配はほぼ終焉しており、他業種の大手メディア企業(放送局の他、広告代理店や出版社)の支配がより鮮明になってきていることがうかがい知れる。
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