本年度は本研究課題の最終年度として、すなわちその集大成として主に映画作業における定量調査において大きな成果を得ることができた。昨年度までの定量調査では、個人の組織化(ネットワーク化)がどのような状況で行われているのかについて見てきたが、ここでは企業の組織化(ネットワーク化)にどのような傾向が見られるのかについて、詳細に検討した。 非常に労力を要したデータペースの整備については、1998年から2006年までの8年間の興行成績上位作品と批評家ランキング上位作品、計371本を対象にし、それらの製作に関与した延べ1703社を挙げ、これらのネットワークについて定量的な分析を試みた。興行志向作品では1作品あたりの共同製作企業数が約5.3社であるのに対して、芸術志向作品ではそれは約3.7社となり、やはり興行志向作品の方が企業間ネットワークが発展しやすい状況にある。これは昨年度に行った個人間ネットワークと同様の特徴だと言える。 興行志向作品の共同製作企業群のなかに幾つかのグループ(クリーク)が見つかっているが、特筆すべきはその中心となっているのが従来からの映画会社ではなく、マスメディア企業だという点である。典型的なのは、放送会社+出版社+広告代理店+出版取次店+映画会社という組合せであり、近年は出版取次店がネットワーク上の優位なポジションを占めるようになっている。 総じて、これまでの研究成果との関連で言えば、企業間ネットワークと個人間ネットワークが同様な傾向を見せており、ネットワークの多様性(規模)を大きくするという戦略が短期的な経済性に貢献する一方で、ネトワークの継続性(密度)を高めるという戦略が長期的な成功(評判)に貢献するということがいえる。
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