研究概要 |
衰退産業における事例研究という逆説的方法を用いて、始原・能力・知識アプローチと企業者活動論を結びつけ、新規事業創造を捉える枠組みを構築することを行った。とくにそれが見落としてきたものについて、資源・能力・知識アプローチと中小企業研究の親和性の観点から検討した。少なくともこの枠組みでは経営資源の優劣や多寡は、企業規模の大小だけからは単純には論じられない。また現在の資源・能力アプローチの研究では、組織の能力は、経路依存性や競争圧力、外在的な技術環境、組織ルーチンなどに還元されてしまう。最近では、希少資源の保有問題や市場での取引可能性が焦点化する。またこの枠組みにおいて、企業は、ただ環境変化に対応するために資源の開発をおこなうという図式を暗黙のうちに前提している。その結果、資源の開発と駆動のメカニズムを解明する具体的なプロセスを示さない限り、自己循環的論理のそしりを免れ得ない。また、希少な資源を保有し、それが、ある時点での競争力の源泉になっていたとしても、長期的には顧客の嗜好の変化や技術革新といった外部環境の変化によって、その資源の経済的・技術的価値は変化する。しかし、競争優位性の源泉となる知識や経験は、新たな企業成長・多角化のボトルネックともなりうる両義性を持つ。その可能性を検討するために資するのは、アプローチの始原にあった問い-変化の説明理論としてのペンローズ理論である。後継者たちは、資源と競争優位との間にあるギャップの等閑視してきた。しかしペンローズは、経営資源と区別し、生産用役を考える。そうすれば、資源を、事業活動にいまだ貢献することのない「未利用で潜在的な」生産用役と、「顕在化した」生産用役との束として定義できる。そこで新たな課題を考えることができる。まずイノベーションの源泉としての未利用で潜在的な生産用役を考えれば、そこでの未利用な生産用役が引き出されるプロセスの解明である。またプロセスにおいて、企業家の知識や経験にもとづく「直感」や「想像力」まで含めた主観的な判断や認識、あるいは経営チームの主体的な活動があってはじめて潜在的な用役が顕在化することの焦点化である。これは、仲介人として企業家を捉える系譜(Marshall 1890,Menger 1871)につらなる。同一の資源を保有し、同一の需要条件に直面していても成長速度や方向性は、異なりうる。経営資源の潜在的用役の多様性と、それが人間の知識や信念によって発見・顕在化されるという側面を考慮にいれると、保有する経営資源の開発と利用を構想することじたいが研究の対象となる。このように経営資源の生産性の不確定性、両義性に着目することで、中小企業の経営資源の制約を動かしがたい宿命とする既成概念に風穴を開けることができる。自社資源の機能の維持、増進、生産性向上に資するものへと製品コンセプトを変更し、絞り込むことによって事業機会は拡大する。資源が機能するような活動を支援する資本財や、サービス、場作りの提供という事業展開を構想することができる。しかもそれがビジネスとして、企業にとっての新たな市場、新たな事業機会になるのである。
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