初年度は主として、文献研究に基づく理論研究およびアンケート調査に基づく実証研究の2本立てで研究を行った。 理論研究では、企業間での流通機能分担関係の変質にフォーカスして、垂直的企業境界の変質をめぐる議論を集中的にレビューした。とりわけ、動的取引費用と組織能力に着目する論者であるRichard Langloisを中心として生じた近年の「消えゆく手」論争に注目し、取引費用モデルとモジュール化のアプローチに基づいた企業間関係の構造変化モデルを検討した。その上で、流通チャネル構造変化への応用可能性を探った。 実証研究では、日本企業を対象としたアンケート調査を2度行った。第1に、流通チャネルの川下からの視点として、日本の自動車流通において頻繁に観察されている製品形態確定の延期化とそれを可能とする組織能力にフォーカスして、自動車小売業者(ディーラー)の各事業所を対象としたアンケート調査を行った。その結果、意思決定者たる小売業のマネジャーの技術革新および需要不確実性への知覚が製品形態確定および発注の延期化を促進していることが発見された。第2に、流通チャネルの川上からの視点として、流通チャネルにおける製造業者と流通業者との長期継続的取引関係の維持のメカニズムにフォーカスして、東証一部上場の製造業者の事業部を対象としたアンケート調査を行った。その結果、流通チャネル構造および取引関係を安定的に維持する要因は、取引主体が抱く「将来の重要性」であり、資産特殊性はそれらを媒介してのみ影響を与えていることが発見された。川中である卸売業者についての調査は現在準備中であり、次年度の課題として残された。 本年度の研究成果は現在、学術雑誌に投稿中である。
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