本研究では、インターネット通信販売(以下、ネット通販)における継続的な市場拡大には、消費者が安心して取引を行うことのできる法整備など何らかの政策的関与が必要となるのではないかという問題意識に立ち、3つの仮説、1.「ネット通販では他の販売形態と比較して消費者の売主に対する立場は強まっており、消費者保護の観点からの法制度は従来の水準に上乗せする必要はない」、2.「ネット通販では非対面性やネットワークの脆弱性に由来する取引の不安定性が内在し、契約当事者間でこれを解消することは現行の法制度で相当程度可能であるが、一部では新たな手当てが必要となる」、3.「ネット通販で何らかの被害が発生した場合は、被害救済や報償責任の観点から契約当事者以外に多数存在する取引関与者への責任追及が望ましいが、現行の法制度では一部を除いて十分ではなく、相当程度は新たな手当てが必要となる」の検証を試みた。 検証のアプローチは消費者法を中心とする法的分析であり、仮説1は(1)消費者問題の歴史的展開と立法動向、(2)消費者問題に対する学説の展開、(3)消費者保護の理論的枠組み、仮説2は(1)契約・商流、(2)資金流・物流、(3)情報流、仮説3は(1)ネットショッピングモール運営事業者の責任、(2)決済機関の責任、(3)インターネットプロバイダなどの通信関与者の責任、の諸点から検証を行った。 その上でいまだ課題として残されている、ネット通販において求められる消費者政策として、1.事業者の競争優位と消費者保護に資する自主規制、2.悪質事業者の排除に資する事後的措置の必要性を論じた。とくに後者については実証的研究として、東京都生活文化局がインターネットオークションで不当表示を行う出品事業者に対して行った警告・指導活動の基礎となる表示・広告事例の収集・分析に協力した。
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