本研究は、業績評価指標としての利益と株価の役割を比較研究するものである。本年度の成果は、主として次の2点である。 (1)第一に、企業戦略を内生的に考慮した上で、利益と株価に連動した経営者報酬がどのように決定されるかについて、理論分析およびそのモデルに基づくシミュレーション分析を行った。経営者報酬の研究においては通常所与とされている企業戦略を内生的に扱っている点で、独創的な研究になっている。具体的には、企業戦略として、成長戦略と原価削減戦略を考慮し、これらの戦略によって最適な報酬契約が異なることを明示した。また、理論分析にとどまらず、今後実証分析を行う際に検証可能な仮説を導出した。特に、企業戦略と株式市場の相互関係を考慮した上で、経営者報酬に関する検証を行う必要があることを明らかにしている。なお、この成果は「企業戦略と株式市場の相互関係:会計情報の特性への影響」(共著)として公表予定である。 (2)第二に、株価連動報酬として、ストックオプション報酬の価値評価を行った。このためにまず、ストックオプションの評価の際に一般に適用されているブラックショールズモデルに加え、Huddartモデル、Hull-Whiteモデルなどにより現実に即した評価方法を習得した、その際、リサーチアシスタントとして金融工学を専門としている大学院生を採用し、理論的背景について詳しく議論した。その上で、これらのモデルを実際に利用し、企業が採用しているストックオプションについて、具体的な価値評価を行った。
|