研究概要 |
本年度は無形資産会計の変遷に関する研究について,同じ英語圈であるイギリスの無形資産会計を対象として検討を進めた。一般経済史及び経営史の文献サーベイを始めに行った。その結果,チャンドラーの『スケール・アンド・スコープ』による比較経営史の手法が,多くの問題点をはらんでいるもののメリットも多く,無形資産会計についてもこれに依拠した形での研究が可能であるという暫定的な結論を得た。 それに従いイギリスの文献に見る19世紀の無形資産会計に関する著述のレビューを行った。The Accountantをはじめとする職業会計土団体が発行する会計雑誌において無形資産が登場するのは19世紀後半のことであり,当初,20世紀に入る直後まで会計的問題はほとんど取り扱われておらず,無形資産,特に暖簾(goodwill)が個人的な属性ときわめて深い結びつきを有していたことを明らかにした。個人企業という企業形態がより広く用いられ,巨大株式会社が多数発生しなかった国において,その価値を認める一方で価値を暖簾を資産とすることについての抵抗感が強いことは,経営史的な発見とも一貫するものである。現在この知見について研究成果をまとめている。 また,このイギリスに関する結論はアメリカとの比較においてさらに明確となる。アメリカにおいては暖簾が市場に対するコーポレート・コントロールの一つの反映である一方,イギリスにおいては市場と暖簾との明確な関係は見いだしがたいのである。
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