本年度は、イギリスにおける一国の医療提供システムを経営するための管理会計システムの実態を、個別病院レベルの管理会計との関係にも注目しながら明らかにした。イギリスにおいては、一国医療提供システムの管理会計ツールとして、共通バランスト・スコアカード(BSC)、共通原価計算、標準診療プロトコル、診療報酬システム、国家戦略予算、が存在することが明らかになった。特に共通BSCと共通原価計算の実態については、詳細に把握することができた。 共通BSCは、医療提供システム全体を対象に、同種施設ごとに共通の枠組みとして構築されるBSCであり、政府保健省の医療政策方向への病院の誘導や、病院間の有効性・効率性比較、各病院のアカウンタビリティの遂行を目的としている。この共通BSC上の目標が直接に個別病院レベルの行動目標に影響を与えている。また一部の地域では診療圏レベルのBSC構築がなされ、その枠組みの中で個別病院のBSCも展開されているが、診療圏BSCは明確に一国レベルの共通BSCの影響を受けていた。 共通原価計算は、保健省が作成したマニュアルに準拠して全病院が共通の方法で実施する原価計算であり、病院間の原価ベンチマーク目的、アカウンタビリティ目的、医療政策意思決定・評価目的、国定価格設定目的から導入されてきた。この共通原価計算により今まで実施していなかった病院も実施するようになったし、またある程度統一された手法により原価計算をするようになったように、共通原価計算の仕組みは個別病院の原価計算に明らかに影響を与えてきた。しかし報告のためだけの簡易な原価計算を実施したり、マニュアルの裁量の余地を活用して独自の原価計算方法により実施したりしており、完全な影響ではないことも判明した。 なお本年度はイギリスにおける実態の把握に限定されているが、本研究で想定している日英豪の比較研究のための方法の示唆も得た。
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