増配と良社株買いは、株主に対する代替的な利益還元手法である。本研究の目的は、増配と自社株買いのシグナルに対する市場の評価を実証的に比較することによって、企業が採用すべき利益還元戦略を提案することである。初年度は、普通配当による増配(以下、普通増配)と自社株買いの中間形態として位置付けることができる記念配当と普通増配を実証的に比較した。 実証分析の結果、以下が明らかとなった。(1)記念配当は利益の増減と有意に関連している。(2)当期の記念配当を次期も据え置いている企業が約半数存在する。(3)記念配当は株価とプラス有意に関連しているが、普通増配のケースほど強力ではない。以下の結果は、記念配当が普通増配と実質的に同じであること、また、記念配当が有する「拘束性」の程度を市場が認識していることを裏付けている。 その一方で、記念配当は高度な「柔軟性」を有していることも判明した。そのため、名目さえ見つかれば、記念配当を利用した「配当操作」が可能となる。まず、(4)すべての企業は、将来業績に自信がない場合、ひとまず記念配当を用いることによって、下方硬直的な普通増配の意思決定を少しでも遅らせることが可能である。さらに、(5)配当政策と記念配当を積極的に組み込み、頻繁に記念配当を実施している企業も少なからず存存する。本研究ではロジット回帰モデルを推定することによって、配当操作を積極的に実施している企業の特性も明らかにした。 本研究の特筆すべき点は以下のとおりである。(1)記念配当の実態を明らかにした初めての研究である。(2)「配当操作」(記念配当を用いた経営者の裁量的な配当調整)という概念を提案し、その具体的内容を実証的に明らかにした。なお、平成17年度の研究成果は、第64回・日本会計研究学会全国大会(関西大学、2005.9.15)にて学会報告された。さらに、当該内容は、雑誌『経営研究(大阪市立大学)』『會計』に掲載された。
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