本研究では、普通配当による通常増配(普通増配)と自社株買いに対する市場の評価を比較する。本年度は、普通増配と自社株買いの中間形態として位置付けられる記念配当と普通増配の比較の観点から、以下の4つの実証分析を行った。(1)記念配当の公表に対する株価反応分析と出来高反応分析。(2)記念配当公表日前後の株価動向調査。(3)記念配当と累積異常リターンの相関分析。(4)記念配当の価値関連性分析。(1)〜(3)はBeaver(1968)型の通常のイベント・スタディを、(4)はOhlson(2001)モデルに依拠した回帰モデルを推定した。 実証分析の結果は、次の2点に要約することができる。(1)記念配当のアナウンスメントは、基本的には、プラスのシグナルとして統計的に有意に評価されている。(2)しかしながら、株価変化との相関は、普通増配のケースほど大きくない。昨年度は、記念配当が有する拘束性の程度や利益変化との有意な相関関係から、程度の差はあるものの、記念配当の実質的な性格が普通増配と類似していることが明らかとなったが、(1)の発見事項は、株式市場が、そのような記念配当の実態を的確に把握していることを証拠付けている。一方、(2)の結果は、株式市場が、記念配当の拘束性の「程度」を的確に識別していることを示している。さらに、いくつかの追加的な分析によって、株式市場が、個々の記念配当の「実施理由」や「実施頻度」など、その「内容」まで的確に把握していることを裏付ける証拠を得た。
|